気管内挿管

しばらく、書くことが思いつかず
放置していたが、
気になることがあり書くことにした。
大学院の講義に向かう途中で
構内の一角でBTLS講習会を行っている風景を
目にした。
それはそれでいいのだが、消防士や救急救命士
の人々は、ここ最近話題となっている気管内挿管の手技に
関してどう思っているのだろうか。
今から私の個人的考えを述べようと思う。

まずは、救命救急士(敬称略)の挿管手技が公認となることで
救命率の向上が望めるのか、という事である。
米国の報告ではエビデンスは無く、有意な向上は
無いとされている。
しかし、それには挿管手技以外の方法(単純な用手気道確保と
アンビューによる呼吸の確保、ラリンジアルマスクの挿入手技) が完璧に履修されていることが前提条件であり、
本邦では米国の報告は前提条件も満たしていないと考えられる為 に当てはまるとはいえない。
何故、ラリンジアルマスクではいけないのか、考えてみた。
・手技が困難
・胃内容物があることを考え、誤嚥の危険性がある
・救急搬送中の様々な振動によるずれ
こんなとこだろうか。
しかし、上記リスクを慮ったとして、
挿管を行うべきなのか。
私は急激な気道の浮腫などによる狭窄が無い限り、
気管内挿管は最終手段であると考える。
ブレードを喉頭に挿入する侵襲度合いは実際にモニタリング
していると想像を絶するものなのだ。
収縮期血圧は瞬間的に200mmHgを超え、脈拍も150回/分を
超過する事だってある。
それが、例えば脳出血や心臓にリスクを抱えている人に
起こったとするならば、それがいかに致命的な行為であるか
は容易に想像が付くであろう。
患者状態を完璧に把握し、急激な循環変動に対する対応が
出来ていない間は
後から改善が望める誤嚥性肺炎のリスクを考えるより、
出来るだけ侵襲の少ない処置を全力で行うべきであろう。
今、麻酔科領域ではいかに挿管時の循環変動を抑えるか、
いかにラリンジアルマスクを効率よく用いるかという
方向に向かっており、それを全否定する現在の動きには
納得が出来ない。
まずは救急救命に関わる全ての医療者が
気管内挿管は安全に行え、確実な管理ができる環境でのみ
行う最終手段であるという認識を持ち、
代替手段を完璧に身に付けることが何より優先されるべきである。
つまり、実際の挿管手技を学ぶより先に救命救急士は
ラリンジアルマスク挿入を完璧に履修すべきだと思う。
もし、もう完璧だと思っておられる方が救命救急士の中で
大多数を占めているのであれば、逆に
手術室にきて講義して欲しいくらいである。
未だに麻酔科全国学会でラリンジアルマスク挿入手技に関する
検討、報告が多数発表されているのだから。
「気管内挿管さえできれば…」では無く、
「もう、気管内挿管しかない」という
認識の浸透が重要であると思う。